ゴーギャンの絵で有名な作品と言えば、タヒチで描かれた現地の女性像です。
明るい日差しとぬるい水、鮮やかな色彩、怠惰な雰囲気の中に生きる神秘的な人々の暮らし。
そんな南国の雰囲気が描かれている、彼の作品群を初めて見たとき、これがフランス生まれの、都会生活に慣れていた人間が描いたものとは思いませんでした。
「タヒチの女(浜辺にて)」1891年 オルセー美術館
都会人が田舎暮らしに興味を持ったと解釈するには軽すぎ、その信仰や文化にののめり込んだと解釈するには重すぎる、この奇妙な遠巻きの目線で描かれた彼の絵は、まるで宗教画のように、彼の夢の中を通してアレンジされたものなのかも知れません。
今回は、そんな彼の生涯をざっと追うと共に、その作品群のエッセンスを探って行きたいと思います。
ポール・ゴーギャンとは
「自画像」1889–1890年 オルセー美術館
ポール・ゴーギャン(1848年-1903)は、フランスのパリ生まれの画家です。
分類は「ポスト印象派」とされていますが、後にブルターニュ地方のポン=タヴァンと言う村で活動したことから、「ポン=タヴァン派」の中心人物ともされています。
作品は太い輪郭線と平坦な面を組み合わせた画風(クロワゾニスム)が主で、画面に装飾性を見出そうとした点で共通する「ナビ派」の画家と深い繋がりがあります。
またクロワゾニスムの技法で、人の内面などを主題とする象徴的絵画を描き出す「総合主義」を生み出します。
ゴーギャンの生涯
- パリで生まれ、幼少期をペルーのリマで過ごす。
- 水夫などの仕事を経て、1871年頃からパリの「ペルタン商会」にて株式仲買人として働くようになる。
- 株式仲買人であったが同僚エミール・シュフネッケルの影響で絵を描き始める。
- 1879年の第4回印象派展に参加。
- 1883年に35歳で仕事を辞め、画家の道を選択し妻子と離れ、生活が困窮していく。
- 1880年以降、ブルターニュ地方のポン=タヴァン村でエミール・ベルナールらと交流しつつ、新しい絵画を模索。
- 1888年にポン=タヴァンでポール・セリュジエを以下のように指導する。(ナビ派の元となる)
「愛の森のあの隅の手前に立つ木を、君はどう見るかね?緑色?では、緑を、君のパレットから最も美しい緑を取って塗りたまえ―――そしてあの影は?むしろ青い?それならその影を可能な限り最も青くすることを恐れてはいけない」
※「ポン・タヴェン派とナビ派」展カタログ(1987年)より引用
その時セリュジエが描いていたのが下の絵でした。
ポール・セリュジエ「愛の森<護符(タリスマン)>」
1888年 オルセー美術館蔵
- 1888年後半にフィンセント・ファン・ゴッホと共同生活を送るが、耳切り事件により2ヶ月で破綻する。
- 1889年に印象主義・総合主義の展覧会開催。
- 1891年にタヒチへ旅立ち、それ以降は精神性の高い、原始的な生命に溢れた独自の絵画を追求した。
ゴーギャンの作品紹介
「ブルターニュの少年の水浴(愛の森の水車小屋の水浴、ポン=タヴァン)」
1886年 ひろしま美術館
ポン=タヴァンに最初に滞在した時の作品。印象派の手法で描かれたもので、この頃のゴーギャンらしい茶色と黄色の置き方が特徴的です。
「アレアレア」1892年 オルセー美術館
ゴーギャンの代表作のひとつで、タヒチで制作された作品。「アレアレア」とは「楽しみ、喜ばしさ、笑い話」と言う意味で、南国の女性たちの神秘的な情緒が描かれています。
楽園のような雰囲気の中でゆったりと座している二人の女性。背景の人物は月の女神ヒナを礼拝する女性たちです。
また、前述したクロワゾニスムの技法+強烈な色彩を用い、人間の内面を表現する象徴的な絵画「総合主義」がはっきりと見受けられます。
「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」
1897-1898年 ボストン美術館
タイトルがポエムっぽくて格好いいので、私が気になっていた作品です。
これは病気と貧困で自殺を決意した後、遺作として描き上げた、139.1cm×374.6cmの大作です。(でも自殺は未遂に終わる)左上の文字はタイトルと署名。まるで死後の世界のような印象ですが、以下のような意味だそうです。
画面右側の子供と共に描かれている3人の人物は人生の始まりを、中央の人物たちは成年期をそれぞれ意味し、左側の人物たちは「死を迎えることを甘んじ、諦めている老女」であり、老女の足もとには「奇妙な白い鳥が、言葉がいかに無力なものであるかということを物語っている」とゴーギャン自身が書き残している。背景の青い像は恐らく「超越者 (the Beyond)」として描かれている。
※ウィキペディアより引用
いかがでしたか?
ゴーギャンに限ったことではありませんが、絵のテイストやテーマが変遷していく様子を追っていくのが楽しいところだと思います。
特にゴーギャンの場合は、タヒチに行ってガラリと変わるようなので、その心境の変化を思うと、やはり歴史上の偉人だろうが現代の一般人だろうが、楽しいことや辛いことが多々あって、どうにかして吐き出そうとする行為は、万人似たようなものなんだなぁと思います。
そう思うと、現代でゴーギャンが人気なのも分かる気がしました。
参考文献
「ポン・タヴェン派とナビ派」展カタログ(1987年)
「印象派を超えて-点描の画家たち」図録(2013年)
「モネ、風景をみる眼 19世紀フランス風景画の革新」図録(2013年)
※作品画像はパブリックドメインのものを使用しています。