私がエミール・クラウスを知ったきっかけは、数年前に開催していたベルギー印象派の展示を観たことに始まります。
当時私は無職期間中で、あまりに暇なため画塾に通おうとしていて、その時の絵の参考にしようと、何となく観に行った展示がコレでした。
私は元々ゴッホの絵が好きで、ゴッホの派生元である印象派の絵も好きだったので、同じ系統のクラウスの画風に興味を持ったのです。
「野の少女たち」1892年 個人蔵
エミール・クラウスは印象派に大きな影響を受け、光の表現を探求しました。
農村の自然や人々の暮らしを好んで描き、その瑞々しい感性と光り輝くような描写は、素直に「美しい」と感じさせるような魅力に満ちています。
そして先日「最後の印象派展」と言う美術展でもクラウスの作品を観ることができ、テンションが上がったので、今回紹介の記事を書くことにしました。
…で苦労したのが、Web上にも書籍にも、資料が少ないこと少ないこと!日本語版のWikiにすら彼の名前がないのです。
でもとりあえず、以前の展示の図録や資料をかき集め、記事をまとめることにしました。
是非たくさんの人に、クラウスのことを知って頂きたいと思います。
エミール・クラウスとは
エミール・クラウス(1849年-1924年)はベルギー出身の画家です。
ベルギー・フランダース(フランドル)地方のリス川(=レイエ川)沿いのアトリエで制作活動を行い、写実的な作品を描いていましたが、1889年~1992年にかけての冬にパリに滞在し、フランス印象派から多大な影響を受けます。
それ以降彼の作品は、印象派・分割主義の技法を加えたものとなり、その光の瑞々しい表現は「リュミニスム(光輝主義)」と呼ばれました。
農村風景やそこに暮らす人々を好んで描いており、その内面も描き出すような、愛に溢れた目線がそれらの作品から感じられます。
また「生命と光(ヴィ・エ・リュミエール)」を言う芸術グループを結成し、「太陽の画家」「リス川の画家」として知られるようになりました。
エミール・クラウス作品の紹介
「刈草干し」1896年 個人蔵
私が実物を観たエミール・クラウス作品の中で、一番好きな作品です。130.2cm×97.5cmと大きめで、原画はかなりの迫力があります。
筆の置き方と、黄色い光と青を帯びた影が、印象派の影響を感じさせます。戸外の強い日差しと、労働する人物の表情の対比がとても美しい一枚です。
「レイエ川沿いを歩く田舎の娘」1895年 個人蔵
まるで写真のような奥行きの深さと、逆光で浮かび上がる真ん中の人物のレイアウトが、どこか切ないような、情緒的な雰囲気を醸し出しています。
クラウスの、この土地への愛情の深さが伝わってきますね。
「レイエ川の水飲み場」1897年 姫路市立美術館蔵
のんびりした牛たちが印象的で、原画がとても綺麗な作品でした。
水に映っている太陽の照り返しが印象的です。水の上の影…特に右下の木の影がアクセントになって、バランスを取っています。
「運河沿いの楡の木」1904年 個人蔵
こうして見ていると、クラウスの作品は逆光のものが非常に多いです。
「光輝主義」とは、光あるところ影ありというものなのか…まあ当然ですが、光ばかりあっても明るく見えないので、暗い場所をどう表現するか、それが大事なのかも知れません。
「ウォータールー橋に沈む夕日」1916年
「ウォータールー橋」はイギリスのロンドンにある、テムズ川にかかる橋です。
モネも同じモチーフを描いており、そっちがかなり有名です。モネの橋+霧のボヤっとした作品とは違い、クラウスのそれは色の抑揚が印象的な作品になっています。
補色である黄色と紫、青とオレンジの組み合わせが美しいです。
いかがでしたか?
作品画像を数点紹介しましたが、エミール・クラウスの作品は原画の素晴らしさに尽きます。
と言うのもの、筆の細かい部分と、ざっくばらんな部分とが、一枚の作品の中に共存しており、その抑揚で遠近感や光の加減が表現されているのですが、画像からはそれがサッパリ伝わらないのです。
また、ゴッホやモネほど絵の具を盛ってはいませんが、程々には盛っているので、画像と実物の印象はかなり違います。
もし機会がありましたら是非、原画を観に美術館へ足を運んでみてください。
参考文献
「フランダースの光 ベルギーの美しき村を描いて」図録(2010年)
「もうひとつの輝き 最後の印象派」図録(2015年)
※作品画像はパブリックドメインのものを使用しています。